障害のある子どもが高校卒業後に直面する「18歳の壁」―重度障害・強度行動障害と社会資源の不足

障害福祉制度

この記事では、重度障害や強度行動障害の状態にある子どもが高校卒業後に直面する、いわゆる「18歳の壁」について考えます。

18歳の壁は、単に「放課後等デイサービスが利用できなくなる」「サービスが児童福祉法から障害者総合支援法に移行する」という問題ではありません。

特に、重度の障害がある人や強度行動障害の状態にある人の場合は、

  • 成人向けの制度へ切り替わる(支援者、関係者ごと一気に)
  • 利用できる時間が短くなる
  • 必要な支援に対応できる事業所が見つからない
  • 利用者本人が進路を選びにくい
  • 将来の住まいや緊急時の受け入れ先がない

といった複数の問題が重なります。

そこで今回は、18歳の壁をいくつかに分けたうえで、卒業前からできることと、地域や行政が整備しなければ解決しないことを整理してみようと思います。テーマ的に内容が非常に長いものになっていますので、お時間がある時にお読みください。

そもそも「18歳の壁」とは?

特別支援学校などに在籍している間は、平日の日中を学校で過ごします。放課後等デイサービスを利用している場合は、授業終了後から夕方まで、支援を受けながら過ごすこともできます。

ところが、学校を卒業すると、学校と放課後等デイサービスを中心とした生活は終わります。

卒業後は、本人の障害や希望に応じて、生活介護、就労継続支援、自立訓練などの成人向け障害福祉サービスへ移ります。(障害程度が軽い人は障害者雇用枠で就業します)

この移行によって、本人や家族の生活に大きな変化が生じることが「18歳の壁」と呼ばれています。

2025年6月の衆議院厚生労働委員会でこの問題が取り上げられた際、国は特別支援学校卒業後に生活介護などが午後3時台に終了する場合があり、夕方の居場所や保護者の就労に影響が出るという意見を把握していると答弁しています。

一方で、18歳の壁に直面している人の人数や、保護者の就労への影響について、全国的な実態調査は行われていないことも明らかになっています。

参考:
第217回国会 衆議院厚生労働委員会 第24号(令和7年6月4日)

18歳の壁① 制度が切り替わる壁

高校卒業前までは、学校教育と障害児福祉の制度が生活を支えています。

高校卒業後は、障害者総合支援法に基づく成人向けの障害福祉サービスが中心になります。

制度が変わるため、卒業前には改めて、

  • 障害福祉サービスの申請
  • 障害支援区分の認定
  • サービス等利用計画の作成(計画相談が導入されている場合)
  • 事業所の見学や実習
  • 利用する事業所との契約

などが必要になります。

手続きを早めに進めることで、卒業直前の混乱を減らせる可能性はあります。ただし、早く手続きを始めたからといって、本人に合う事業所が見つかるとは限りません。地域に対応できる事業所がなければ、どんなに早く準備をしても解決できないからです。

18歳の壁② 利用できる時間の壁

学校在学中は、学校と放課後等デイサービスを組み合わせて、夕方まで過ごしている人もいます。一方、卒業後に利用する生活介護は、午後3時台から4時台に終了するところが殆どです。

その結果、

  • 帰宅時間が早くなる
  • 夕方の居場所がなくなる
  • 家族の帰宅まで一人で過ごせない(留守番が出来ない)
  • 家族が勤務時間を短くする
  • 家族が仕事を辞める

といった問題が起こります。

この点は、生活介護の時間を延ばすだけで解決するとは限りません。送迎時間、職員配置、事業所の営業時間、夕方以降の支援なども一緒に考える必要があります。

現実的な対応としては、地域の状況に応じて、

  • 生活介護の延長支援
  • 日中一時支援
  • 地域活動支援センター
  • 移動支援
  • 居宅介護
  • 夕方の余暇活動

などを組み合わせる方法があり、国は2024年度の障害福祉サービス等報酬改定で、生活介護の延長支援加算を見直しています。ただし、制度や加算が用意されていても、延長に対応できる事業所や職員がいなければ利用できません。

参考:
令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について(厚生労働省)

18歳の壁③ 受け入れ先が見つからない壁

重度の障害がある人や強度行動障害の状態にある人の場合、日中に通う事業所そのものが見つからないことがあります。

ここでいう「事業所」には、日中通う生活介護事業所、短期間泊まる短期入所、生活の場となるグループホームや障害者支援施設などがあります。

それぞれ役割が異なるため、単に「施設が足りない」とまとめるのではなく、何が不足しているのかを分けて考える必要があります。

例えば、生活介護事業所が地域にあっても、

  • 常時見守りが必要
  • 食事や排せつ、移動に多くの介助が必要
  • 医療的ケアが必要
  • 音や人の動きへの細かな配慮が必要
  • 自傷や他害、物壊しなどの行動がある
  • 一対一に近い職員配置が必要

といった場合には、受け入れが難しくなることがあります。

厚生労働省の検討会では、サービスの利用を断られて自宅で過ごしている事例や、施設、グループホーム、短期入所などの利用希望が満たされていない事例が報告されています。

参考:
第1回 強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会議事録

強度行動障害とは?

強度行動障害は、病名ではありません。

自分の体を傷つける、他の人をたたく、物を壊す、強いこだわりがある、睡眠が大きく乱れるなど、本人や周囲の生活に大きな影響があり、特別な支援が必要になっている状態をいいます。行動だけを見ると、「対応が難しい人」と捉えられることがあります。

しかし、その背景には、

  • 予定が分からず不安になっている
  • 自分の希望や苦痛を伝えにくい(どのように振舞えば良いかわからない)
  • 音や光などの刺激が強すぎる
  • 周囲の関わり方が本人に合っていない
  • 急な環境変化に対応できない

といった理由が隠れていることも多いです。

厚生労働省の報告書でも、本人の障害特性を把握し、強度行動障害につながっている環境要因を調整することが、標準的な支援であるとされています。

参考:
強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会報告書(厚生労働省・PDF)

なぜ受け入れが難しいのか

受け入れ先が見つからない理由を、「事業所の理解や努力が足りない」だけで説明することはできません。

重度の障害や強度行動障害のある人を支えるためには、

  • 十分な人数の職員
  • 障害特性を理解した職員
  • 本人が落ち着いて過ごせる空間
  • 個別に活動できる場所
  • 行政や医療機関、相談支援機関との連携
  • 緊急時に応援を求められる体制
  • 他の利用者を含めた安全への配慮

などが必要になります。

厚生労働省の報告書では、事業所が感じている課題として、

  • 人員体制が不十分
  • 職員の精神的負担
  • 事業所の専門性が不十分
  • 環境設定が難しい
  • 事務作業の負担
  • 関係機関との連携が難しい
  • 経費の負担

などが示されています。

つまり、事業所に受け入れる意思があっても、現在の職員数や建物、運営体制では継続的に支援できない側面があります。

一方で、この状態をそのままにすると、支援の必要性が高い人ほど利用できる場所が少なくなります。事業所の努力だけでなく、事業所を支える仕組みも必要です。

18歳の壁④ 本人が選べない壁

受け入れ先が少ない地域では、本人が複数の候補から進路を選ぶことが難しくなります。

実際には、「本人が行きたい場所を選ぶ」というより、「受け入れてくれる場所を探す」ことが優先される場合があります。

この状況では、

  • 本人がどのように過ごしたいか
  • どのような活動をしたいか
  • どのような環境なら安心できるか
  • 誰と関わりたいか
  • 将来の目標はどのようなものか

といった本人の希望が後回しになりやすくなります。

厚生労働省の障害児入所施設からの移行に関する会議でも、移行先を決める際には、障害の程度にかかわらず本人の意思を確認し、意思決定を支える必要があると指摘されています。

参考:
第1回 障害児の新たな移行調整の枠組みに向けた実務者会議 議事要旨

18歳の壁⑤ 将来の暮らしが見えない壁

高校卒業時に日中の通所先が決まっても、それだけで将来の生活が整ったとはいえません。

家族が病気になったときや、介護を続けられなくなったときに、

  • 短期入所を利用できるか
  • 緊急時に受け入れてくれる場所があるか
  • グループホームで生活できるか
  • 入所施設を利用できるか
  • 自宅で必要な支援を受けられるか

という問題が残ります。

日中活動の場、緊急時の支援、将来の住まいは、それぞれ別の社会資源です。生活介護が決まったから安心、短期入所を一度利用できたから安心、というわけではありません。卒業後の進路を考える際には、日中の活動先だけでなく、数年後、さらにその先の暮らしまで考えていく必要があります。

卒業前から準備すれば解決するのか

卒業前から準備することは重要です。

例えば、

  • 本人が落ち着いて過ごせる環境
  • 苦手な音や活動
  • 分かりやすい伝え方
  • 本人の意思表示の方法
  • 有効だった支援
  • 必要な介助や医療的ケア
  • 行動が不安定になったときの対応

などを整理し、学校から成人期の支援者へ引き継ぐことができます。見学や実習を早めに始めれば、本人と事業所の相性や、必要な環境調整も確認できます。

厚生労働省の会議でも、少なくとも高校入学時など、早い段階から移行準備を始める必要性が議論されています。

参考:
第2回 障害児の新たな移行調整の枠組みに向けた実務者会議 議事要旨

ただし、早く準備すれば必ず利用先が見つかるわけではありません。早期準備で改善できるのは、手続き、情報の引き継ぎ、実習、環境調整などです。

一方で、

  • 地域に対応できる事業所がない
  • 定員に空きがない
  • 職員を確保できない
  • 医療的ケアに対応できない
  • 夕方の支援がない
  • 短期入所や将来の住まいがない

といった問題は、本人や家族が早く動くだけでは解決できません。ここを分けて考えないと、受け入れ先が見つからない理由が、家族や相談支援専門員の準備不足と受け取られてしまいます。

現在の仕組みで取り組めること

新しい施設をすぐに作ることは難しくても、現在の仕組みの中で始められることはあります。

①支援情報を丁寧に引き継ぐ

学校、家庭、放課後等デイサービスなどが把握している支援方法や本人の特徴を整理し、卒業後の事業所へ共有します。

➁早い段階から見学や実習を行う

本人が実際の環境を経験し、事業所側も必要な支援を確認します。

③利用を断られた事例を記録する

「利用先が決まらなかった」という結果だけでなく、断られた理由を整理します。人員、設備、送迎、医療対応などの理由を集めることで、地域に何が不足しているのかが見えやすくなります。

④事業所への専門的な支援を行う

強度行動障害に詳しい支援者が事業所を訪問し、本人の特性や環境調整について一緒に検討します。

2024年度の障害福祉サービス等報酬改定では、状態が悪化した強度行動障害のある人に対する「集中的支援」の仕組みも設けられています。

ただし、地域に専門的人材や実施体制がなければ利用できないため、人材育成も同時に進める必要があります。

地域や行政による整備が必要なこと

現在ある制度を組み合わせるだけでは解決できない問題もあります。

例えば、

  • 重度障害に対応できる生活介護の定員
  • 夕方まで利用できる支援
  • 医療的ケアに対応できる事業所
  • 緊急時にも利用できる短期入所
  • 強度行動障害に対応できるグループホーム
  • 専門職が事業所を支援する仕組み
  • 夜間や休日を含む居宅支援
  • 安定して働ける福祉人材の確保
  • 支援者の専門性の維持・向上

などです。

こうした社会資源は、家族や一つの事業所の努力だけでは作れません。行政が地域のニーズを把握し、障害福祉計画などに反映しながら、計画的に整備する必要があります。

そのためには、

  • 卒業後の利用先が決まらなかった人数
  • 希望どおりの日数を利用できていない人数
  • 家族が対応しているため表面化していないニーズ
  • 受け入れを断られた理由
  • 不足しているサービスの種類
  • 事業所が受け入れるために必要な支援

を把握することが必要です。

ただし、会議を開いて情報共有するだけでは、定員や職員、建物は増えませんし、課題は解決しません。連携によって現在ある支援をつなぐことと、不足している社会資源を新しく整備することを分けて考える必要があります。

計画相談と基幹相談にできること

計画相談支援では、本人や家族の希望を聞き、必要なサービスを整理します。

卒業後に利用する事業所の見学や実習、サービス申請などを調整することもあります。ただし、地域に利用できる事業所がなければ、サービス等利用計画を作るだけでは生活は成り立ちません。

一人の相談支援専門員だけで抱えず、基幹相談支援センター、行政、学校、事業所などと課題を共有する必要があります。

基幹相談支援センターには、個別の相談から地域に共通する課題を見つけ、行政や自立支援協議会などにつなげていく役割があります。

例えば、

  • 同じ理由で利用先が見つからない人が複数いないか
  • どのような支援ニーズに対応できていないのか
  • 既存事業所が受け入れるためには何が必要か
  • 市町村だけで解決できない場合に、都道府県とどう調整するか
  • 今の制度下で、既存の社会資源の組み合わせはどこまで可能か

などを整理します。

大切なのは、「この人をどこにつなぐか」だけで終わらせず、「なぜこの地域では受け入れ先が見つからないのか」「既存の社会資源の組み合わせでどこまで対応できるのか」まで考えることです。

まとめ

18歳の壁は、一つの問題ではありません。

  • 成人向け制度へ切り替わる壁
  • 利用時間が短くなる壁
  • 必要な支援に対応できる事業所が見つからない壁
  • 本人が進路を選びにくい壁
  • 将来の住まいや緊急時の支援が見つからない壁

が重なっています。

卒業前から準備することで、手続きや支援情報の引き継ぎ、見学、実習などは進められます。

一方、地域に事業所、人材、短期入所、夕方の支援、将来の住まいなどの社会資源がなければ、本人や家族が早く動くだけでは解決できません。その部分は、個別の努力ではなく、地域の問題として扱う必要があります。

本人や家族、学校、相談支援、事業所が現在できる準備を進める。同時に、今ある社会資源の組み合わせを工夫しつつ、行政や地域の関係機関が足りない社会資源を把握し、整備に繋げる。

この二つに分けた取り組みを一緒に進めることが、高校卒業後の生活を支えるうえで必要なことだと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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